ホームシアターにおけるビジュアル機器の花形は、なんといってもプロジェクター。近年、国内ブランドからハイエンドやミドルクラスのモデルがリリースされるだけでなく、リビングにも導入しやすい明るくカジュアルなプロジェクターが海外ブランドから多数登場するなど、プロジェクターのシーンが大いに盛り上がっています。そこで本稿では、4K/HDR対応モデルはもちろん8Kモデルまで、今注目すべきプロジェクターを一挙にクオリティチェック。ホームシアターライフをさらに豊かにしてくれるモデルを見極めます。
PART3>>>プロジェクター・クオリティレビュー[2022] 今見逃せない4K超えモデルを横並び PART3
CONTENTS
・究極の画質を目指し研ぎ澄まされた高級機
・VICTOR「DLA-V70R」
・SONY「VPL-XW7000」
・VICTOR「DLA-V90R」
・SONY「VPL-VW875」
・深みのある映画表現か新たなHDR表現か
・測定から見るプロジェクターの特徴
・SPEC
・REFERENCE
究極の画質を目指し研ぎ澄まされた高級機
本稿では、「ハイエンドクラス」として100万円を超えるプレミアムなホームプロジェクターのなかから、4モデルをピックアップして比較レビューを行います。画質や機能が価格と必ず比例するとは限りませんが、ここで取り上げるのは、いずれもホームシアター用として最高峰の画質を目指したモデルばかりです。
専用室シアターや完全暗室で究極の映像を追求するホームシアターファンの声にしっかりと応えてくれるため、その価値はプライスレスといえるでしょう。製品の傾向として、光源にレーザーを採用し輝度性能を高め、独自の反射型デバイスで暗部の沈みを抑え、画質で最も重要な要素といえるコントラストを追求しています。解像度の面では、4K、さらに8Kといったデバイスの採用に加え、レンズも豪華仕様です。色収差を抑えての高精細化、大口径化による明るさと解像度の追求など、全てが高画質を目指して研ぎ澄まされています。
- 「ハイエンドクラス(100万円以上)」では、ホームシアター用のプロジェクターとして最高峰の実力をもつモデルたちのクオリティをチェックしました。4Kだけでなく8Kまで対応するモデル、各社が培ってきた高画質技術が惜しみなく投入されたモデルが並びます。
VICTOR「DLA-V70R」
- VICTOR
「DLA-V70R」
¥1,305,000(税込)
8K e-shift採用の中位モデル
4K解像度のD-ILAを用いて8K表示が可能な「8K/e-shift」を採用したビクターブランドの中位モデル。光源は「BLU-Escent」と呼ぶ青色レーザー光源を採用し、最大2200ルーメン(ANSI)の明るさを実現しています。HDMI入力は最大8K/60p、HLG、HDR10+に対応するほか、HDR10映像に対してはフレーム毎に解析してマッピングを最適化する独自の「Frame Adapt HDR」も採用しています。15群17枚のオールガラスレンズも特徴。
- 「映像タイプ」を選択することで、視聴する映像作品に適した画質モードを選択できるようになります。入力信号に合わせて自動で切り替えてくれる「オート」をはじめ、HDRフォーマットの「HLG」「HDR10」「HDR10+」、そして「SDR」のモードを用意しています。
- 「HDR Processing」は、「Frame Adapt HDR」の画質モードを選択している時に設定できる画質調整項目です。映像のフレーム毎にピーク輝度を解析して明るさ調整を行う「フレーム」、シーン毎に解析する「シーン」、コンテンツのMaxCLL/FALLを基に設定して動的調整を行わない「固定」から選べます。
- DLA-V70Rは、下位機の「DLA-V50」、そして上位機の「DLA-V90R」などと同様に、HDMI入力端子を2基搭載しており、48Gbps、HDCP 2.3対応を果たしています。
解像感と暗部の締まりが際立つ
D-ILAはネイティブコントラストの高さに秀でていて、暗部の見通しや色再現の高さは格別。映画映像は、遠景の薄くなりがちな色も識別可能で、情報量が多いです。8Kアップスケーリングも優秀で、色と明暗のグラデーションに密度も伴い、映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は暗いバーのシーンも、背景の奥まで見通せ、色乗りもリッチ。レンズも併せ、オンフォーカス・オン部の描写とコントラストが先鋭で、浮き上がるような立体感も素晴らしいです。夜景映像は、暗部の引き締まりと解像度の高さにより、観覧車のような線が細いオブジェクトも分離がよい印象。光源の鋭い輝きも心に沁みます。スクリーン間近に寄ってもディテールが濃く、ジオラマを鑑賞するような楽しみ方ができるのも魅力です。
- DLA-V70Rの画質傾向/映像コンテンツの相性
- DLA-V70Rの測定による傾向
よく観察すると、上位機と比べても、RGB間の谷が深いです。明るさと色域スペックはDLA-V90Rに一歩譲るものの、上位機でシネマフィルター不使用時と遜色の無い色域性能を発揮すると思われます。音楽ライブ映像はピンク色のライト演出が少し淡めながら諧調の豊かさが確認できました。
SONY「VPL-XW7000」
- SONY
「VPL-XW7000」
¥OPEN(実勢価格¥1,870,000前後)
新たな4K SXRD採用の注目機
ハイエンド機の「VPL-VW775」の後継機種となるのが「VPL-XW7000」です。「Z-Phosphor」のレーザー光源と、画素間の隙間を従来の0.74型から0.61型に狭めた新型のネイティブ4K SXRDデバイスを採用しています。明るさは最大3200ルーメン(ANSI)、「X1 Ultimate for プロジェクター」、広色域「トリルミナスプロ」、IMAX Enhanced対応も果たしました。また、最上位機の「VPL-VW875」で採用されている「アドバンスド クリスプフォーカスレンズ」を搭載しているのも特徴です。
- VPL-XW7000に搭載されている映像モードは多種多様で、HDR信号が入力されている時、「ピクチャープリセット」から「シネマ フィルム1/2」「リファレンス」「ブライトシネマ」「ブライトTV」など、10種類の映像モードが選択できます。また、新たに「IMAX Enhanced」に対応したことも注目です。
- 「Motionflow」の映像調整項目では、映像作品の動きを滑らかに表示するよう調整できます。映画などに大きく効果を発揮する「スムース 強」、標準的な映像に最適な「スムース 弱」、そして毎秒24フレームで作成された映像作品をオリジナルフレームで再現する「True Cinema」から選択できます。
- プロジェクター本体の側面に入出力端子と操作パネルを装備しています。HDMIの入力端子は2基搭載。ウェブブラウザで本機を操作できるLAN、その他にTRIGGERやUSB-Aの端子を備えています。
明るく力強いコントラスト表現が優秀
黒の沈み込みがマイルドで、暗部の階調や色彩も表現も穏やか。映画映像のように平均輝度が低く、暗いシーンが多く暗部諧調の表現が画の印象に直結する作品では、従来モデルと同等の印象です。一方、レーザー光源による3000ルーメンの明るさは、前モデルの2000ルーメンと比較すると、見た目の印象は桁違いです。コンテンツの多くがHDR化するなか、明るく力強いシーンを楽しみたいものです。ソニーの映像技術として注目したいのは、24fps映像のジャダーを抑えつつフォルム映画の雰囲気も保つ補間技術「True Cinema」の妙。映画館以上に映像が明るくなると、ジャダーが目に付き易くなるので、非常に重要な機能と
いえます。
- VPL-XW7000の画質傾向/映像コンテンツの相性
- VPL-XW7000の測定による傾向
VPL-XW5000と同様、青色の山が鋭く、青色レーザー光源特有のスペクトル。青のピークの高さが、よりパワフルであることを示しています。ライブ音楽映像では、色彩を伴ったパワフルな明るさが、ステージの迫力を高めます。シャープ&クールな画調を好まれる方に適した特性といえます。
VICTOR「DLA-V90R」
- VICTOR
「DLA-V90R」
¥2,882,000(税込)
100mmレンズが映える最上位モデル
4方向シフトに対応した「8K/e-shiftX」に対応したフラグシップモデル。光源は青色レーザー「BLU-Escent」を採用し、最大3000ルーメン(ANSI)の明るさを実現しています。レンズ口径は、DLA-V80R/V70Rが65mmに対して、本機は100mmとさらに大口径になり、500ルーメンの輝度差、コントラスト差も生まれています。HDMI入力は最大8K/60p、HLG/HDR10+対応、HDR10映像に対する「Frame Adapt HDR」など、ソフトウェア部はV80R/V70Rと同等です。
- 映像タイプを「HDR10」に設定している際、HDR10の映像作品に収められているフレーム毎の明るさ情報を、ビクターの独自解析アルゴリズムを用いて解析して、最適な画質で楽しむことができる「Frame Adapt HDR」の機能を活用できます。
- DLA-V90Rをはじめとするビクターの8Kプロジェクターでは、「8K e-shift」の機能が搭載されています。「オン」にすれば8K e-shiftを活用した8K解像度の映像を表示でき、「オフ」の場合は4K解像度で映像を出力します。
- 18Gbps、HDCP 2.3対応のHDMI入力端子を2基搭載。別売の3Dシンクロエミッターを接続できる3D SYNCHRO、ブラウザで本体コントロールができるLAN、USB-A、TRIGGERの端子を装備しています。
圧巻の輝度表現と随一の質感描写
映画映像は、黒の沈み、暗部諧調の豊かさ、そして見通しは優秀です。下位機と決定的な違いは、光の当たっている場所の影の対比。HDRならではの光源の明るさ感は同じに見えても、光の当たっている感、当たっていない部分との光沢感に差がでるなど、質感表現がより豊かです。解像感では、繊細な線が太くならず繊細なままなのは、4方向シフトのアドバンテージと思える部分。車の光沢や、水たまりの反射が艶やかなのも特筆に値し、レンズが持つ素直さが感じられます。夜景映像は光の粒がゴージャスで、まるで百万ドルの夜景を目の当たりにしているかのようです。遠景ではビルの高さだけでなく、地形の凹凸までも如実に感じられるのは、本機でしか味わうことのできない体験です。
- DLA-V90Rの画質傾向/映像コンテンツの相性
- DLA-V90Rの測定による傾向
輝度はDLA-V70Rよりも1.2倍強高い測定値。青色レーザー特有のピークと、緑から赤色にかけてなだらかなスペクトラムです。プリズム偏光方向を改良した新光学エンジン「Ultra-High Contrast Optics」によるものでしょう。明るく高色域な性能が、HDRを活かした艶やかな表現を可能にしています。
SONY「VPL-VW875」
- SONY
「VPL-VW875」
¥OPEN(実勢価格¥3,300,000前後)
4K SXRD搭載のフラグシップ
ソニー独自の反射型液晶デバイス「4K SXRD」を用いたプレミアムモデル。光源は「Z-Phosphor」と呼ぶ青色レーザーで、明るさは最大2200ルーメン(ANSI)。パネル解像度に満たない映像は、「データベース型超解像処理LSI(リアリティークリエーション)」でアップスケーリングされます。特殊低分散ガラスを素材とし、18枚構成でフォーカス時に2群を可動させる「ARC-レンズ(オールレンジ クリスプフォーカス)」の採用など、光学系にも注力しています。
- VPL-VW875の「ピクチャープリセット」から選べる映像モードでは、ダイナミックレンジが広く透明感のある画質表現が可能な「シネマ フィルム1」、実際の映画館の映像美を再現する「シネマ フィルム2」、映像作品がもつ画質をそのまま忠実に再現する「リファレンス」など、さまざまなモードを用意。
- 映像調整項目の「シネマブラックプロ」では、レーザー調光やアイリスの可動範囲などを調整できる「アドバンストアイリス/レーザーライト設定」やHDRコンテンツのシーンに応じて最適なコントラストを得られるように調整する「D.HDRエンハンサー」の調整項目を搭載しています。
- HDMI入力端子は、18Gbps、HDCP 2.2に対応しており、2基搭載しています。ブラウザでの操作用にLANを1基、TRIGGERを2基、USB-Aを1基装備しています。
ダイナミックで躍動的な画力
暗いシーンは暗部の沈みが穏やかでやや平面的な印象を受けますが、平均輝度が高い画では明部の抜けがよく、相対的に暗部の見通しもよく感じられます。大型センサーと高性能レンズを持つカメラのように、ぐっと惹き付けられる画力は、スペックに現れにくい部分です。コントラストを引き出すために光源やアイリスを動的にコントロールしますが、全く違和感を覚えないのは優秀。映画映像も終始安定感が高く没入できます。音楽ライブは、照明が大きく変化しても違和感なく追随。光関連の制御が多段階で精密なことが窺えます。裏を返すと、ダイナミックな表現が可能で、ステージのパワフルさや躍動感が伝わってくる印象です。
- VPL-VW875の画質傾向/映像コンテンツの相性
- VPL-VW875の測定による傾向
580nm周辺に深い谷、600nmに少し尖ったピークが見えます。赤色の色域拡大と色彩のコントロールを狙ったものでしょう。確かに、夜景映像でも、航空障害灯や車のテールライトといった光源が明るくかつ色乗りも濃い印象。映画も発色がくどくならず色乗りがリッチです。
深みのある映画表現か新たなHDR表現か
ビクター対ソニーという構図になりましたが、傾向に大きな違いあり、ユーザーの利用環境や視聴するコンテンツに応じて選ぶのが、よりよい結果をもたらすでしょう。ビクターは独自のD-ILAデバイスによるネイティブコントラスト性能が優秀で、完全暗室で映画をじっくりと鑑賞する用途に適します。また、8K入力/出力に対応した唯一のブランドであることも見逃せません。
ソニーは画作り方針に、ブラビアで培ってきた技術が反映されたビビッドな表現が印象的。HDR時代の今、新しい提案として注目に値します。300万円に迫る価格は高価ですが、ブラウン管時代と比べると、劇的な進化を遂げつつ価格は据え置きともいえ、技術の進化の恩恵を感じさせてくれます。コストパフォーマンスも含めると、「DLA-V70R」の健闘が目立ちました。
測定から見るプロジェクターの特徴
今回のクオリティチェックでは、映画作品『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(4K Ultra HDブルーレイ)、紀行映像『『8K空撮夜景 SKY WALK』(4K Ultra HDブルーレイ)、音楽ライブ『アリアナ・グランデ:excuse me, i love you』(Netflix)の視聴と並行して、スペクトルと輝度の測定も実施しました。
今回、KIKUCHIのスクリーン「SES-120HDSG/K」に投写し、反射光をコニカミノルタの業務用の分光放射輝度計「CS-2000A」で測定。これにより、光源に含まれるRGB成分が分析でき、UHE光源/LED光源/レーザー光源といった光源の違い、そしてより繊細な設計意図も理解できる場合があります。
レーザー光源モデルの特長は、青色レーザー(単波長とも呼ばれる純度が高い青色)を用い、緑色と赤色は蛍光剤で変換することから、青色に針のような鋭いピークが見られることです。ただし山の幅は細く面積としては小さいので、映像の色味が青色に偏る訳ではありません。色純度の高さ、言い換えると色域の広さと、明るさを両立できる方式です。
ほか、グラフの読み方としては、RGBの山がくっきりしていると色域が広いことを表します。RGBが独立したLEDモデルは、実際の映像もそうした特徴がみられます。UHEモデルなど、山谷がなだらかな波形は、色純度やコントロールが不利な反面、映像が明るく感じます。光源による特性を知っておくと、用途に応じた製品の選び方にも役立つはずです。
- 今回取材したプロジェクターのなかで、UHE光源を採用しているモデルのスペクトラム。
- 今回取材したプロジェクターのなかで、LED光源を採用しているモデルのスペクトラム。
- 今回取材したプロジェクターのなかで、レーザー光源を採用しているモデルのスペクトラム。
SPEC
VICTOR「DLA-V70R」
●投写形式:反射型液晶 ●投写デバイス:0.69型 4K D-ILA×3 ● 表示解像度:8192×4320 ●レンズ:2倍電動ズームフォーカスレンズ ●光源:レーザーダイオード ●投写サイズ:60~200型 ●明るさ:2,200lm ●騒音:24dB ●消費電力(待機時):420W(0.3W) ●主な入力端 子:HDMI×2、LAN×1、USB-A×1 他 ● 外形寸法:500.0W×234.0H×505.0Dmm ●質量:22.5kg
SONY「VPL-XW7000」
●投写形式:反射型液晶 ●投写デバイス:0.61型 4K SXRD×3 ●表示解像度:4096×2160 ●レンズ:2.14倍電動ズームフォーカスレンズ ●光源:レーザーダイオード ●投写サイズ:60~300型 ●明るさ:3,200lm ●騒音:約26dB ●消費電力(待機時):約420W(約0.3W) ●主な入力端子:HDMI×2、LAN×1、USB-A×1 他 ●外形寸法:460W×210H×517Dmm ●質量:約14.0kg
VICTOR「DLA-V90R」
●投写形式:反射型液晶 ●投写デバイス:0.69型 4K D-ILA×3 ● 表示解像度:8192×4320 ●レンズ:2倍電動ズームフォーカスレンズ ●光源:レーザーダイオード ●投写サイズ:60~300型 ●明るさ:3,000lm ●騒音:24dB ●消費電力(待機時):440W(0.3W) ●主な入力端子:HDMI×2、LAN×1、USB-A×1 他 ●外形寸法:500.0W×234.0H×528.0Dmm ●質量:25.3kg
SONY「VPL-VW875」
投写形式:反射型液晶 ●投写デバイス:0.74 型 4K SXRD×3 ●表示解像度:4096×2160 ●レンズ:2.1倍電動ズームフォーカスレンズ ●光源:レーザーダイオード ●投写サイズ:60~300型 ●明るさ:2,200lm ●騒音:24dB ●消費電力(待機時):490W(0.4W) ●主な入力端子:HDMI×2、LAN×1、USB-A×1 他 ●外形寸法:560.0W×223.0H×510.5Dmm ●質量:約22kg
REFERENCE
- レコーダー
PANASONIC
「DMR-ZR1」
- スクリーン
KIKUCHI
「SES-120HDSG/K」
- 分光放射輝度計
KONICA MINOLTA
「CS-2000A」