CONTENTS
・グループでは過去に名機を多数発売していた!
・液晶ディスプレイ搭載で使いやすいデザイン
・クラスDアンプの搭載で音質と薄型を両立
・気になる音質は「もうひとつのJBL映画の音」
・SPEC
JBLブランドから国内初のAVアンプ「MA9100HP」と「MA710」が発売されました。いずれもデザインとサウンド、そして機能性を磨き上げた意欲作です。サウンドバーで人気を集めるJBLが開発した本格AVアンプの実力とはいかに!? VGP審査委員長の大橋伸太郎氏が上位機MA9100HPの魅力を解説します。
- 9.2chAVアンプ
JBL
MA9100HP
¥253,000(税込)
グループでは過去に名機を多数発売していた!
日本ではJBLブランドのAVアンプは初めてでも、ハーマンインターナショナルグループとしてみれば決して初ではありません。1980年代、アナログのサラウンドがムーブメントになった時期、ファン垂涎のホームシアター機器は「LEXICON(レキシコン)」の最高峰サラウンドプロセッサーでした。
1990年代には、Harman Kardon(ハーマンカードン)がホームTHXに対応しスピーカーシステムまで含む壮大なシリーズ、「Citation(サイテーション)」を発売。デジタルサラウンドの時代になり2003年には、Mark Levinson(マークレヴィンソン)がメディアコンソール「No.40L」を発売してファンの度肝を抜きました。
No.40Lはビデオプロセッサー部とオーディオプロセッサー・プリアンプ部の2筐体構成。ビデオプロセッサー部の前面パネル中央に液晶ディスプレイをそなえ、ホームシアターで視聴中のビデオ映像をモニターできるスタジオコンソールから抜け出したような高機能なプロセッサーで、価格は5,800,000円という途方もない製品でした。つまりアナログ時代から現代までハーマングループには映像音響プロセッサーとサラウンドアンプの技術がつねに底流となって脈々と存在しているのです。
今回MA9100HPが登場した背景には、サウンドバーの分野で近年JBLが好調な点が挙げられます。GFKデータの2024年第一四半期累計で上位20に3機種がランクインしています。また、創立75周年を記念して2021年に発売したステレオアンプ「SA750」、クラシックシリーズのプリメインアンプとして昨年発売になった「SA550 Classic」が好評裡に迎えられたことがあります。
- 75周年記念モデルは世界限定生産だったため即完売となり、翌年の2022年末にレギュラーモデルの「SA750WAL」が発売されました。
一方、本分の家庭用スピーカーシステムは2024年9月、フロアスタンディング型、ブックシェルフからサブウーファー、イネーブルドまで擁するホームエンターテインメント用の新シリーズ「Stage2」が登場したばかり。掌中のカードは揃いました。サウンドバーで満足できなくなったユーザーの受け皿を用意しなければなりません。あとはサラウンドアンプを待つばかりだったのです。
- スピーカーシステム
JBL
Stage 2シリーズ(写真右から)Stage 280F:¥82,500/税込/1本、Stage 260F:¥68,200/税込/1本、Stage 250B:¥55,000/税込/ペア、Stage 240B:¥40,700/税込/ペア、Stage 240H:¥55,000/税込/ペア、Stage 245C:¥55,000/税込/1本、Stage 200P:¥68,200/税込/1本
液晶ディスプレイ搭載で使いやすいデザイン
そうして登場したAVサラウンドアンプMA9100HPのパッケージングは、日本製あるいは少数ですが過去に存在したイギリス製AVアンプとも共通点がなく、往年の同社名作アンプをリブートしたSA750やSA550とも一線を画したユニークなものです。海外では白と黒の2色展開ですが日本では白のみの展開です。
一般的にパワーアンプを多数個内蔵するためAVアンプの筐体は大きく厚くなりがちですが、MA9100HPは高さ135mmの薄型設計でフロントパネルはツマミ、ダイヤル類が極限まで整理されています。リモコンも同様にユーザーが直感的操作できるようにデザインされ、JBLはヒューマンセントリックデザインと呼びます。
電源オン時にボディ前面下部に仕込まれたLEDが点灯し、初期設定時は設置面をJBLのシンボルカラー・オレンジに彩ります。サブスクのストリーミング再生を重視して、中央部の6.5インチ液晶ディスプレイに再生中の音源のジャケットアートや楽曲の情報をカラー画像で表示します。
- 華やかな印象を与えるLEDライティングがあるため、リビングに設置する際もラックの外に設置して使いたいです。またカラーはJBLオレンジのほか、イエロー、グリーン、ブルー、パープル、レッドの6色から選べ、輝度の調整もできます。
クラスDアンプの搭載で音質と薄型を両立
本機パワー部は9チャンネル構成で増幅素子にクラスDアンプを採用しています。SA750の実績を踏まえての採用です。定格出力は2ch駆動時で140W(8Ω)、240W(4Ω)。プロセッサー部はドルビーアトモスやDTS:Xなどイマーシブオーディオをデコードします。
他社にあるような自動音場補正機能は搭載しないため、スピーカーのタイプや距離、レベル調整などは自分で測定して入力設定する必要があります。ですが、独自のルーム補正「EZ SET EQ」に対応する点が個性的です。これはスマホのマイクを使って手軽に部屋の音響伝送特性を補正することができます。またライセンスを別途取得(有償)すれば「Dirac Live」のより高度なルームキャリブレーションが運用可能です。
HDMI出力は2系統、入力は合計6系統。6入力うち3系統は最大8K/60Hz、4K/120Hz入出力まで対応します。eARCはもちろんHDRもHDR10+、ドルビービジョンに対応するほか、VRRやALLM等ゲーム用もそなえます。
アナログFMチューナーは省略されましたが、スマホアプリ「JBL PREMIUM AUDIO」を用いることでインターネットラジオを聴くことができるほか、ネットワーク上のオーディオサーバー内の音楽ファイルを再生もできます。
またROON ReadyのためROONを経由することで、これらに合わせてハイレゾ音楽配信サービスの「Qobuz」を高品位に楽しむことができます。またQobuzはChormecastやAirPlay経由での再生にも対応します。さらにSpotify Connectにも対応し、これら音楽サービスを再生時はジャケットアートを本体のディスプレイ表示しつつ再生ができます。
その一方、フォノイコライザー(MM)を搭載、アナログレコード再生に対応するのは、オーディオの過去現在未来に寄り添うJBLらしい篤実さといえましょう。本国で本機は「レシーバー」ですが、事実AVサラウンドアンプというより、進化形ホームエンターテインメントセンターと呼ぶほうが機能とミッションに忠実かもしれません。
- MMのフォノイコライザーも内蔵します。また背面にはアンテナを3本取り付けできますが、Wi-Fi用に2本、Bluetooth受信用に1本使います。なお、Bluetoothは高品位コーデックであるaptX AdaptiveとaptX HDにも対応する点がポイントです。
気になる音質は「もうひとつのJBL映画の音」
試聴のレファレンス・スピーカーシステムには、同社最新の「Stage2シリーズ」を組み合わせました。結論を先にいうと、ソフトの情報をすべて出し切る克明さ、明瞭さが魅力のアンプです。JBL Stage2との純正組み合わせで、その特長が最大発揮されます。
JBLは劇場(映画館)用で大きな信頼を築いたトップサプライヤーですが、映画館と家庭では「映画を音で伝える」意味合いが変わります。映画館で問われるものは隅々の客席までセリフを明瞭に届ける広指向性と音量です。
家庭はその点はそれほど悩む必要なく、細かな情報をもれなく歪みなく出し切るということです。もうひとつ重要なのは、一般家庭で防音処理したリスニング環境はまれで、小音量でも細かな音を聞き逃さないバランスのよさが重要です。
MA9100HPはスピーカーのドライブ能力だけでなくS/Nが非常に高く小音量時の音の粒立ち、描出力に優れています。これはAVサラウンドアンプ一号機を世に問うにあたり、迷わずクラスDアンプを採用したことが勝因となりました。
日本映画『PERFECT DAYS』は、ボリュームを小音量に絞ってもセリフの口跡が鮮明で物語の進行と発展が理解できます。俳優の声質の違い、セリフにこめた演技をいきいきと伝えます。中盤の石川さゆりのコブシの効いた「朝日のあたる家」も力に溢れています。
この映画で繰り返し現れる公園のシーンは、DTS-HDをドルビーサラウンドにアップスケールして聴くと、樹々のさざめきや遠巻きに聴こえるさまざまなノイズが美しく生々しいです。映画で重要なカーステレオで聴くロックやR&Bのナロウレンジのこもった音が主人公・平山の軽乗用車の車中にいるように聴き手を暖かく包み込みます。
- 組み合わせたスピーカーはJBL「Stage 2シリーズ」です。フロントは「Stage 280F」、リアに「Stage 250B」、センターは「Stage 245C」、サブウーファーは「Stage 200P」、イネーブルドに「Stage 240H」を使った5.2.2ch構成で確認しました。
『デューン 砂の惑星PART2』(ドルビーアトモス)でのMA9100HP+Stage2はアンプもちまえの情報量と解像力、スピーカーの客観性が発揮され映画のワンシーンの事象(出来事)を音情報で伝達・理解させることに徹しています。そのため観る者が映像に集中し身を委ねることができるのです。
『インディ・ジョーンズ 運命のダイヤル』(ドルビーアトモス)は、MA9100HPのDSPの動作が精密でアクションシーンの方向性が克明で的確。イマーシブ再生でしたが、ガンアクションでの音場内の着弾地点が目に見えるよう。
クラスDアンプの利点のひとつが、全チャンネル同時駆動時に取り出すことのできるパワーの大きさ、ヘタレのなさです。その点においては『TAR』(ドルビーアトモス)の再生上のポイントのひとつ、CH5主人公リディア・ターの鳴らすピアノの単音がベルリンフィルのマーラー交響曲第5番第一楽章の総奏に変わる場面転換は、音圧が頭打ちになったり歪みが発生したりすることがなく、Fレンジ、音場への広がりとも十分。
このあざやかすぎる劇的効果を体験したら、サウンドバーには戻れないでしょう。薄型設計で瀟洒なパッケージングのMA9100HPがこれだけの厚い音を生み出すのもクラスD回路の設計が奏功しているからです。
JBLが国内で初めて投入したAVサラウンドアンプMA9100HP。その存在意義はたんに初めて、だからではありません。ここには確かに「もうひとつのJBL映画の音」があります。
SPEC
- 9.2chAVアンプ
JBL
MA9100HP
¥253,000(税込)
●チャンネル数:9.2ch ●定格出力:140W RMS(8Ω)、240W RMS(4Ω)●Wi-Fi:2.4GHz/5GHz ●Bluetoothコーデック:aptX Adaptive、aptX HD、SBC ●入力端子:HDMI×6、デジタル音声×2(光1/同軸1)、アナログ音声(RCA)×1、PHONO×1 ●出力端子:HDMI×2、サブウーファー×2、ゾーンアウト×2 ●最大消費電力(スタンバイ時):900W(0.5W未満) ●外形寸法:432.0W×135.0H×396.4Dmm ●質量:約7.6kg