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レビュー

  • 「生形三郎のSPEAKER JOURNEY」 世界のスピーカーブランド 連載第2回
    SONUS FABER(ソナス・ファベール)
    Chameleon B

    取材・執筆 / 生形三郎
    2019年6月5日更新

    • VGP審査員
      生形三郎

西洋音楽の礎を築いたイタリアのブランド

イタリアといえば、料理やファッション、西洋美術は勿論のこと、階名(ドレミ)や楽語(PianoやAllegroなど)がイタリア語であることからも分かるように、西洋音楽の歴史においても、その礎を築いたことで名高い国です。当然オーディオ分野においても、独自の美意識に基づいた魅力的な製品を世に送り出しています。今回はそんなイタリアを代表するスピーカーブランド、ソナス・ファベール「カメレオンシリーズ」への旅へとご案内しましょう。

  • カメレオンシリーズは、ブックシェルフスピーカーの「カメレオン B」のほか、トールボーイスピーカーの「カメレオン T」、センタースピーカーの「カメレオン C」をラインアップします。

第3回「VIENNA ACOUSTICS(ウィーンアコースティクス)」

第1回「FOCAL(フォーカル)」

意匠に作り手の美意識を体現

同社のスピーカーは、弦楽器を特に美しく響かせることでよく知られ、実際スピーカーの製品名にも、バイオリン作りの名匠の名前などが冠されています。筆者は以前とある弦楽器専門店でアマティやストラディヴァリウス、グァルネリなどのイタリア系の名作から、ヴィヨームなどフランスものまで、目の前で一度にバイオリンを聴き比べさせて頂いたことがあります。それら全てが異なる響きを持つのは当然のことですが、同時に、意匠の細部にも、作り手本人の美意識が体現されていることが印象的でした。

ボディのアーチ(表裏板の膨らみ部分)の曲線や、スクロール(ネック先端の渦巻き部分)の造作などに作り手の明確な個性があり、そこに自身のアイデンティティがしっかりと刻印されているのです。グァルネリは、そこで聴いたストラド系列の楽器とは対照的に、やや無骨で陰りを湛えるサウンド(勿論、楽器によりますが)を体現するかのように、その風体もどこかミステリアスな色味を秘めた容姿だったことが記憶に焼き付いています。そして、ソナス・ファベールのスピーカーを前にするときも、その時の記憶がふっと甦ります。つまり、作り手の美意識が、強くこちらに浸透してくるのです。

  • ラテン語で「音の工房」が由来のソナス・ファベールは、フランコ・セルブリン氏により1980年にイタリアのヴィチェンツァにて創業。自家ワイナリーに囲まれた静かな環境、そして精緻な木工技術から数多のオーディオ製品の傑作が誕生しています。

同社は、今回ご紹介するエントリークラスのカメレオンシリーズでさえ、北イタリアの本社工房で、全て手作業での仕上げを行なっているといいます。丁寧に仕上げられた革張りや、流麗ながらもどこかで親しみやすさを持ったフォルムなど、まさに設計者の思考が表に出てきているかのよう。それらが個性あるサウンドと融合することで、ユーザーの心を強く魅了し続けているのではないでしょうか。

スタイリッシュで愛らしいデザイン

カメレオンBは、まずそのスタイリッシュながらも愛らしいデザインが印象的ですが、側面から見ると台形をしたそのフォルムは、筐体内の定在波対策にも大きく寄与している事は間違いなさそうです。また、側板が着せ替え可能な点は実にカジュアル。

  • 全7色のサイド・パネルは着脱式となっています。別売にも対応するため、好みに合わせてカラーも可能。また4層構造を採用しており、不要な振動を分散・吸収することでキャビネットの制振構造をより強固に補完しています。

さらに、スピーカーユニットにもカスタム品が搭載され、エントリーモデルとはいえ手抜かりがありません。低域を増強するバスレフポートは、メッシュカバーを纏って本体下面に設置され、同機の密度の高いサウンドを決定づけています。

  • 新規設計のドライバーユニット。トゥイーターには、繊細かつ澄明な高域再生を目指しドイツの名門ドクトル・クルト・ミューラー製シルク・ソフトドームを採用。ウーファーには、しなかやで弾力性のあるポリプロプレン・ダイアフラムを採用しています。

アコースティック音源にぴったり!

本機が奏でる音を初めて聴いたとき、まるで程よく熟した果実のように、コンパクトな中に、上質な甘みがギュッと詰め込まれたスピーカーだと感じました。音色的には、適切なピラミッドバランスが実現され、肉付きのよいプロポーションが魅力的。ともすればピーキーになりがちな中高域の表現に落ち着きがあり、雑味がなく出音が硬くなりません。バスレフポートから放射される低域は、ウーファーの響きと相まって適度に低い重心を築き、ゆったりと心地よい鳴りを形作。それでいて音色バランスが適切なので、どのようなソースも自然な音で楽しませてくれます。

弦の響きが特に美しく、線が細くなりがちなバロックバイオリンなども果肉感のあるジューシーさで奏されます。擦弦楽器は、弓毛に松脂を塗り立ての時の方が、より演奏音に引っかかりの良い艶感を持ちますが、まさにそのようなフレッシュな湿度感を帯びたスムーズな心地よさを持っているのです。ソプラノなどの女声も、明るさと瑞々しさが両立した麗しさを持っており快く、弦楽器が入るアコースティックソースを好んで聴く方にとって、まさに好適なスピーカーだと断言できます。小型ブックシェルフということもあり、編成的には、弦が主役となるようなソロや合奏、室内楽など、ある程度コンパクトな編成のものの方が、このスピーカーが持っているスケール感にマッチするでしょう。

  • カメレオン Bの音質傾向

推薦ソフト3選で聴く

  • <自然音+ピアノ>
    『Singing in My Ears』
    Saburo ubukata + Joe Okuda
    2013年作品
    NATURE BLISS
    ¥2,365

意外なところでは、波音や小川のせせらぎなどの自然音、つまり水音との相性も抜群に素晴らしいです。本作は、高性能ダミーヘッドマイクを用いた高音質なバイノーラル録音で知られるジョー奥田氏による自然音と、筆者のピアノ演奏がコラボレーションした作品。手前味噌で恐縮ですが、静かな波音やせせらぎの水の飛沫が、艶々とした音色でしっとりと歌い上げられる様がとても美しいです。背景に聞こえる鳥のさえずりにも程よく艶が載り、実に心地よいサウンドを奏でます。

  • <クラシック>
    『メンデルスゾーン:チェロとピアノのための作品集』
    クリスチャン・ポルテラ&ロナルド・ブラウティハム
    2017年作品
    BIS Records
    ¥2,500

メンデルスゾーンによるチェロとピアノのデュオを、フレッシュな演奏と録音で楽しめる作品。瑞々しいチェロの音色とそれが響き渡る収録空間の清々しさが何とも快いです。ガット弦による潤いある音色と、ボディの乾いた共鳴が小気味よく漂う様子を、饒舌にピックアップして描写します。フォルテピアノの音色が放つ独特の色香も、カメレオンが持つ音色によって、より温かみを持って湧き立ってきます。両者の掛け合いが、生き生きとした表情で伝わります。

  • <ジャズ>
    『Bridges』
    Adam Baldych & Helge Lien Trio
    2015年作品
    Act Music
    輸入盤

トラッドヴァイオリンがピアノトリオをリードするジャズ作品。ヴァイオリンの音色表現が特に美しく、湿度感を持ったハリのある音色を楽しませてくれます。ウッドベースやバスドラムの中低域~低域にかけてもしっかりと反応し、肉付きよく心地よいサウンド。ピアノやドラムのシンバルなど、明るくなりがちな楽器も華美にならず穏やかな音色で、主役のヴァイオリンが引き立ちます。アルバムが持っている静かな雰囲気にとても良くマッチした作品です。

LINE UP

Chameleon B
WOOD ¥180,000(税抜/ペア)
RD/BK/OR/MB/MG/WH ¥150,000(税抜/ペア)

SPEC

[Chameleon B]
●形式:2ウェイ・バスレフ型 ●ユニット:29mmシルク・ソフトドームトゥイーター×1、150mmポリプロピレン・コーンウーファー×1 ●周波数帯域:50〜25,000Hz ●クロスオーバー周波数:2,500Hz ●能率:87dB ●外形寸法(W×H×D):185×320×285mm ●質量:7kg