VGP phileweb

ソフト

  • 伊尾喜大祐が推す!
    ハイクオリティソフト<2019/ブルーレイ>
    2019年度のブルーレイ・ベスト5!

    取材・執筆 / 伊尾喜 大祐
    2020年4月22日更新

趣味性の高いラインアップが並ぶ

邦画の最新作や長年人気の旧作などが4Kリマスター版でリリースされ、高画質を追求しながらもコアな映画ファンの趣味性をくすぐるタイトルが、ブルーレイ(BD)では多数登場しています。遊び心溢れる仕様のパッケージや特典などもBDならでは。4K Ultra HDブルーレイ(UHD BD)編に引き続いて、まだまだ見逃せないBDのハイクオリティソフトを伊尾喜大祐氏が選出します!(編集部)

欲しい作品がUHD BDとBDで同時発売された時、迷わず前者を買い求めるような熱心なオーディオビジュアルファンの皆さんなら、洋画・邦画・アニメを問わずBD中心な2019年のソフト事情はもどかしかったかも知れません。とは言え、旧作のニューマスター版での再発、数々の日本語吹替の完全収録版、各国盤の特典映像を網羅した愛蔵版など、BDならではの趣味性の高い豊かなラインナップが喝采を浴びていたのもまた事実です。作り手の立場で言えば、UHD BDは本編の4K&HDRリマスターやエンコード費用などのマスター制作費や、ディスク自体の製造コストがまだまだ高価。これに比べるとコストが熟れたBDなら、遊び心のある凝った仕様のパッケージ企画を実現しやすかったりします。最新のプレイヤーやレコーダーなら、4Kアップコン性能の向上も相まって、BDでもこれまで以上の画や音を楽しめるようにもなってきました。

  • 高画質&高音質の最高峰のメディアは、やはり4K/HDRが楽しめるUHD BDですが、国内で人気を博した邦画タイトルはまだまだBDが一番ハイクオリティで楽しめるメディアです。さらに旧作品のリマスター版も未だ続々と登場しているのもBDの特長です。

個性派揃いのBDをホームシアターで!

そんなバラエティに富んだラインナップから選んだのがこの5作品です。カンヌ映画祭で最高賞を受賞した『万引き家族』は、実力派キャストたちの体温を感じそうなほどの、生々しい演技と映像に圧倒されます。まさかの大ヒット作『翔んで埼玉』は、意外なほどに熱い展開はもちろん、映像・音響面でも徹底的に楽しませようとする熱量が凄い!伝説の超大作『恐怖の報酬』は国内ではVHS以来のパッケージ化で、しかも78年の日本公開版より30分も長い完全版での登場に拍手。久々のパッケージ化という意味では『タッカー』も同様で、こちらはレーザーディスク以来の国内盤のリリースです。幻のタッカー車をめぐる数奇な実話を、コッポラが熟練の演出で描きます。そして『ダンスウィズミー』は筆者が映画本編とBD制作に参加した作品。新旧のヒット曲をフィーチャーした久々の和製ミュージカルは5.1ch再生で楽しさ倍増ですよ。個性豊かな作品群を、ホームシアターでじっくりお楽しみ下さい。

  • 2019年度版のハイクオリティソフトとして選ばれたベストBDは、『万引き家族』、『翔んで埼玉』、『ダンスウィズミー』の新作3タイトル、『恐怖の報酬』、『タッカー』の旧作2タイトルです。

『万引き家族』

  • 『万引き家族』
    フジテレビジョン/ポニーキャニオン
    PCXC-50147
    ¥6,700(税抜)
    ●製作:2018年/日 ●本編ディスク:120分、ビスタ ●本編音声:日本語DTS-HDマスターオーディオ5.1ch、日本語DTS-HDマスターオーディオ2.0ch、日本語DTS Headphone:X
    © 2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

35mm撮影の精細感が目を見張る

キャスト陣の凄みのある演技が紡ぐ、カンヌ映画祭最高賞の受賞作。世間から忘れ去られたかのような昭和家屋(美術セットが見事!)に住む、家族ぐるみで盗みを重ねる一家。その謎めいた関係性が徐々に明かされる、濃密なドラマは圧巻です。夏の午後、茶の間で汗ばみながら求め合う夫婦。空虚な表情の風俗嬢。万引き生活に次第に抵抗を覚える長男・・・リリー・フランキーに安藤サクラ、松岡茉優に樹木希林と、ただでさえ演技派揃いのキャストから、是枝裕和監督はさらに自然で生々しい演技を引き出して見せます。その舞台裏を映し出すメイキングなども出色の面白さ。例えば海辺のシーンでおばあちゃんが何と言ったのか、気になる方も多いのではないでしょうか? 35mm撮影の映像は精細感に目を見張ります。黒を引き締めた濃密な色彩設計は、その暗部に「家族」の謎めいた関係を象徴させるかのよう。特にCH8では、電車が進む田園の鮮やかな発色で目を引きつけ、物語のターニングポイントとなる海水浴の場面に雪崩れ込む映像演出が印象的。寒色と暖色のトーンを使い分けた季節の表現も見事のひと言です。5.1ch音声はじっとり重たい雨音や画面外で打ち上がる花火など、環境音が生々しい質感です。

  • 『万引き家族』
    画質評価/音質評価

『翔んで埼玉』

  • 『翔んで埼玉』
    フジテレビジョン/東映・東映ビデオ
    BSZS10104
    ¥4,800(税抜)
    ●製作:2019年/日 ●本編ディスク:106分、シネマスコープ ●本編音声:日本語DTS-HDマスターオーディオ5.1ch、日本語DTS-HDマスターオーディオ2.0ch、日本語 DTS Headphone:X 他
    ©2019映画「翔んで埼玉」製作委員会

凝りまくったコスチュームも緻密に

2019年を代表する特大ヒット作。東京都民からの惨い迫害に終止符を打つべく、関東圏一帯を巻き込んで埼玉県民が立ち上がる!今の日本映画界で、くっだらない映画(もちろん褒め言葉ですよ)を真剣かつ大真面目に撮らせたら右に出る者がない、これは『テルマエ・ロマエ』武内英樹監督の大金星。主演のGacktと二階堂ふみ以下、個性的過ぎる登場人物たちがシネスコ狭しと闊歩する映像は、光のフレアが神々しく広がる画作りでインパクト絶大。凝りまくったデザインの宝塚的コスチュームも、生地や刺繍のディテールが緻密です。色彩面では黄金のトーンがゴージャスな東京パートに、埼玉パートは寒々しいグレートーンで対比させるなど、カリカチュアされた画作りに笑わされます。5.1ch音声もまたハイテンション。特にCH10からのクライマックスの大決戦では、群衆の叫び声にバイクやデコトラのエンジン音、ハンス・ジマーばりのBGMが渾然一体となってサラウンド音場を満たします。壮大なエンディング曲が『スター・ウォーズ』×『スーパーマン』そのものだったり、音楽面でもギャグが満載。正直、感情の起伏の激しさゆえにセリフが聞き取りづらい箇所も多少ありますが、細かいことは、ま、いっか。。

  • 『翔んで埼玉』
    画質評価/音質評価

『ダンスウィズミー』

  • 『ダンスウィズミー』
    ワーナー・ブラザース
    1000753425
    ¥7,264(税抜)
    ●製作:2019年/日 ●本編ディスク:103分、ビスタ ●本編音声:日本語ドルビーTrueHD 5.1ch、日本語音声ガイドドルビーデジタル2.0ch
    © 2019「ダンスウィズミー」製作委員会

階調が柔らかなポジフィルムの質感

もし音楽が聞こえた途端にどこでも歌って踊り出す、ミュージカル体質になってしまったら・・・そんな催眠術にかかってしまったOL静香の大騒動を描く、ちょっとメタ的なミュージカルコメディです。実は筆者も本作スタッフの1人で、矢口史靖監督と共に本BDの制作監修も務めています。「ホームシアターファイルPLUS」本誌のレビューでは、堀切日出晴氏が「きめ細やかな暗部の表現から柔らかな階調をもったハイライトまで、フィルムルックな映像表現で魅せる」と評してくれましたが、それもそのはず。矢口監督と撮影の谷口和寛カメラマンが目指したのは、まさにポジフィルムの質感なんです。そのため黒をきっちり締めた、濃度のコントラストのきちんとついた映像が意識されています。色彩面でもハイライト部に赤や黄の暖色系/シャドウ部に青やシアンの寒色系を乗せた、補色の色味によるコントラストを加味。これが「初期テクニカラーを思わせる、上品でノスタルジックな色合い」(堀切氏)に結実したわけですね。そして5.1ch音声は、山下久美子「Tonight」やシュガー「ウエディング・ベル」、Orange Pekoe「Happy Valley」などなど、矢口監督いわく「古びない曲」が全編でごきげんにサラウンド!

  • 『ダンスウィズミー』
    画質評価/音質評価

『恐怖の報酬』

  • 『恐怖の報酬』
    キングレコード
    KIXF-628~9
    ¥8,800(税抜)
    ●製作:1977年/米 ● 本編ディスク:121分、ビスタ ●本編音声:英語ドルビーTrueHD 5.1ch(アドバンスド96kアップサンプリング)、日本語DTS-HDマスターオーディオ2.0ch
    ©MCMLXXVII by FILM PROPERTIES INTERNATIONAL N.V. All rights reserved.

フィルムの広大なラチチュードまで再現

世界各国から南米の村に流れ着いた、殺し屋、投資家、テロリスト、アイリッシュマフィア。彼らは1万ドルの「報酬」と引き換えに、ジャングル奥地の油井火災の消火に向かいます。一触即発の消火用ニトログリセリンをトラックに積み、果てしない悪路を往く彼らの運命とは? 1977年の初公開時には空前の『スター・ウォーズ』ブームに煽られて世界的に興行が失敗し、日本公開時にも30分も短縮される憂き目に遭った本作。しかし次第に再評価の機運が高まり、2019年には遂に完全版が日本初公開された、まさに伝説の超大作です。BDには完全版の本編を4Kリマスター&5.1chリミックス音声で収録。映像はフィルムの広大なラチチュードを余すところなく再現。太陽がジリジリと肌を灼き、底なしに沈む暗部は男たちの行末を暗示します。ねっとりと濃密な発色も熱帯の湿気を否応なく感じさせるもの。5.1chサラウンドは豪雨に打たれるトラックの重みで吊り橋が軋むCH12など、随所で神経を逆なでする非情な音響設計に震え上がるはず!2枚組「最終版」の特典盤には、ウィリアム・フリードキン監督のロングインタビューやドキュメンタリーなど、本作をさらに深掘りする3時間半もの映像が満載で、こちらも圧巻でした。

  • 『恐怖の報酬』
    画質評価/音質評価

『タッカー』

  • 『タッカー』
    是空/TCエンタテインメント
    TCBD-0854
    ¥4,800(税抜)
    ●製作:1988年/米 ●本編ディスク:約110分、シネマスコープ ●本編音声:英語 ドルビーTrueHD 5.1ch 、日本語 ドルビーデジタル2.0chモノラル
    The Man and His Dream TM &© 1988 Lucasfilm Ltd.(LFL).All Rights Reserved.

車体の流線形と光沢感の再現も見事

卓越した性能とデザイン、そして革新的な安全装備を持つ、夢の車を完成させた男、プレストン・タッカー。しかしGM・フォード・クライスラーの自動車業界ビッグ3や保守的な政財界が、彼の大躍進を妨害し始めて・・・。監督はフランシス・コッポラ、製作はジョージ・ルーカス。主人公タッカーを演じるジェフ・ブリッジスの熱演も光る、これはクルマ好きならずとも胸熱くなるヒューマンドラマの傑作です。撮影当時現存した46台ものタッカー車を集めて撮影されたラストシーンは、何度見ても涙腺が緩んでしまうほど。BD映像のマスターは、35mmフィルムからの4Kスキャン。粒状感がしっとり残る、車体の流線形と光沢感の階調描写が見事です。全編をノスタルジックに暖かく包む、オレンジの暖かなトーンも印象的。精細感も確かで、iTunesの4Kドルビービジョン版と比較しても遜色なし。そして配信版を大きく凌ぐのが、ロスレス収録の5.1ch音声です。セリフや効果音の解像感もレンジ感も明らかに上回り、ジョー・ジャクソンのジャジーな音楽の響きも実にフレッシュ。ハイクオリティな音響デザインは、スプロケットシステム=現在のスカイウォーカーサウンドならでは!

  • 『タッカー』
    画質評価/音質評価

[特別編]愛を込めて“モノ申す” 期待はずれ作品~BD編

ディスク制作に関わる者なら誰もが抱えるジレンマ。それは権利元から供給されるマスターこそ「聖域」であり、例えそのクオリティに疑問があっても、我々にできるのは「圧縮品質を極力マスターに近づける」だけ、ということです。その意味で『ムトゥ 踊るマハラジャ 4K&5.1chデジタルリマスター版』は、随所で目立つオリジナルフィルムの褪色が、デジタルリマスター時に補正されていないことが惜しまれます。逆に『ポノック短編劇場 ちいさな英雄』は、マスターの高クオリティを実感させる映像ながら、8bit圧縮の限界なのか、繊細な色彩階調がノイジーに見えてしまう仕上がりに。音の鮮度はセリフ・効果音・音楽いずれも非常に高く、イマイチなキレ味の映像を補って余りある素晴らしい仕上がりなんですが・・・。そしてTBS日曜劇場スタッフによる『七つの会議』は、おじさんたちの苦み走った表情がシネスコ画面をこれでもかと占拠する、良くも悪くもテレビ的な画作りに、ちょっと閉口してしまいました。

  • 『ムトゥ 踊るマハラジャ 4K&5.1chデジタルリマスター版』/『ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-』/『七つの会議』

関連記事

「伊尾喜大祐が画質と音質で選んだ! ハイクオリティソフト<2019/4K Ultra HDブルーレイ>」