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レビュー

  • 「生形三郎のSPEAKER JOURNEY」 世界のスピーカーブランド 連載第6回
    MartinLogan(マーティン・ローガン)
    ElectroMotion ESL X

    取材・執筆 / 生形三郎
    2021年2月17日更新

    • VGP審査員
      生形三郎

静電型を採用した数少ないメーカー

今回は、少し変わったフォルムのスピーカーをご紹介します。背の高い丸みを帯びたパネルのような形状が美しい、「MartinLogan(マーティン・ローガン)」のスピーカーです。マーティン・ローガンは、1983年にアメリカで設立されたスピーカーブランドで、Gayle Martin SandersとRon Logan Sutherlandの二人の創設者のミドルネームをブランド名の由来に持ちます。静電型と呼ばれる特殊な駆動方式を採用した数少ないスピーカーメーカーで、世界特許技術の静電型スピーカー技術によって実現される独特な音色が魅力です。なお、Sutherlandは後年、Sutherland Engineeringを設立し、ハイエンド・アンプブランドとして高い評価を獲得します。

  • 1983年以来、静電技術や薄膜技術を採用した高性能なスピーカーを製造してきた「マーティン・ローガン」。米国カンザス州ローレンスに本拠を置くマーティン・ローガン専任のデザイナーとエンジニアリングチームは、各スピーカーを入念に開発。その繊細な再生音は、世界中の音楽愛好家を虜にしています。

静電型という方式は、電極の間に置かれた、極めて薄い膜状の振動板が電圧の変化によって前後に振動することによって、空気を動かして音を生み出します。通常のスピーカーユニットが持つ振動板よりも圧倒的に質量が軽いため繊細な表現が得意で、なおかつ、大きな平面形状から奏でられる透明感のある音色が特長です。

なかでも、マーティン・ローガンがユニークなのは、ご覧のように振動板のパネル面が大きく湾曲していることです。Curvilinear Line Source(CLS™)と呼ばれるこの技術により、音の拡散が制限されてしまうという平面振動板が持つ課題を克服し、より広範へと音を届けることを可能にしました。また、平面振動板に加え、コーン型のウーファーを組み合わせたハイブリッド静電型スピーカーシステムとすることで、ダイナミックな低域再現を実現しています。

  • 独自の静電パネルを円筒形にする画期的な技術のCLS™(Curvilinear Line Source)技術。 穏やかな水平方向の曲面は、広い放射面から良好な高域分散を獲得しています。

第7回「POLK AUDIO(ポークオーディオ)」

第5回「musikelectronic geithain(ムジークエレクトロニク・ガイザイン)」

価格対性能を追求した主力モデルが登場

マーティン・ローガンは、このハイブリッドシステムを核に、技術の更新やラインアップ拡充を続け、壁掛けスピーカーやサラウンドに対応したセンタースピーカーの開発、そして、2m以上もある巨大な平面ユニットとサブウーファーで構成される究極のハイブリッドシステムなどを発表してきました。

今回ご紹介する「ElectroMotion ESL X」は、同社の静電型スピーカーユニットを搭載しつつも、価格対性能を追求したElectroMotion seriesの主力モデル。従来モデルよりもさらに広い振動板面積を獲得した静電型ユニットと、スピーカー下部に配置された2発の20.3㎝径ウーファーユニットによって構成されています。ウーファーユニットは前方と後方には位置され、下部にはダウンファイヤリング式のバスレフポートが配されています。湾曲され細く緩やかに傾斜した静電型ユニットと、天面と背面とに異なる傾斜を持ったウーファーボックスから形成されるモダンなルックスが印象的な、美しいスピーカーです。

  • 「ElectroMotion ESL X」
    ¥800,000(税抜/ペア)

身体全体で音を浴びているかのような音楽体験

早速そのサウンドに迫ってみましょう。音の質感がソフトで、決して鋭角的になることがありません。まるで自然界の音を聴いているかのように、ナチュラルに音が耳に届くところが、静電型ならではの持ち味で、このスピーカー最大の魅力でしょう。どのようなソースを聴いても、音が優しく耳に届くことが快いのです。そしてそこへ、デュアル構成のウーファーによる厚みある低音が加わることで、一層快適なサウンドを形成しています。同時に、長大な面積を持ちつつ湾曲したCLS™パネルの恩恵もあり、身体全体で音を浴びているかのような音楽体験を味わえることも、心地よさの秘訣ではないでしょうか。まさに、他では決して味わえない音楽再生なのです。
とりわけ、生楽器を主体としたアコースティックソースが絶品です。デリケートなタッチで紡がれるジャズピアノは、まるで音が舞い上がるかのように耳に届いてきます。オーケストラソースも、tuttiによる強奏部分でも、どこまでも肌触りの良い音色で、なおかつ広大な音場へと余韻が繰り広げられていきます。また、ハイレゾソースでは、微細なダイナミクス表現へ繊細に追従する、生々しい音楽表現に驚かされます。

  • カスタム設計されたデュアル20.3㎝オーディオファイルグレードのドープド・ファイバー・コーン・ウーファーを採用。コーンのサスペンションと磁束フィールドを最適化するデザインにより、低歪みで大きな低音出力を生み出しています。 強固で軽量化によりコーンのたわみをなくし、応答時間を最小にすることで、上位モデルに近い性能を達成しています。

そして、意外かも知れませんが、パワフルな勢いが魅力のバンドサウンドなどとも、実に相性がいいです。エレクトリックギターのリフは、分厚く押し出し豊かに迫るとともに、独特の美しい艶を湛えており、刺激的な質感はどこにもありません。迫力ある音楽の再生が快感で、ホームシアターのメインスピーカーとして用いても、大迫力のサウンドを堪能させてくれることでしょう。ポップスの歌声も、同じく張りが豊かで独特の魅力があり、エレクトリックベースやバスドラムは、タップリとした量感で豊かに繰り広げられます。
よって、本機は、アコースティックソースは勿論のこと、ロックやポップスを充実した音色と音圧感で、身体全体で音を浴びるかのように楽しみたい方に特にオススメです。むしろ、このスピーカーは、とりわけ後者の再生を意識して作られているのかもしれません。いずれにせよ、どのようなソースもリラックスして楽しむことができるでしょう。
使いこなしのコツとして、本機はデュアル搭載されたウーファーによって実にタップリとした低域を持っていますので、置き場所や置き方を追い込むことで、より魅力的な音が聴くことができます。できれば壁から距離をとって設置すると共に、足回りはスパイクを使用し、床へと低音エネルギーがダイレクトに伝わることを避けましょう。また、壁から離すことができない場合などは、本体裏側のバスレフポートにウレタンブロックなどを挿入して、低域のコントロールを調整してもいいでしょう。

  • ElectroMotion ESL Xの音質傾向

推薦ソフト3選で聴く

  • <ロック>
    『OK COMPUTER OKNOTOK 1997 2017』
    Radiohead
    2017年作品
    XL Recordings
    ¥2,500(税抜)

幻想的な世界観が魅力のレディオヘッドのアルバムは、その世界観がさらに引き出されました。伸びのいいエレクトリックギターのサウンドは、麗しい音色でもって、厚み豊かなボディと長大な余韻を楽しめます。とりわけ、深いリバーブが掛けられたトレモロ奏法のギターの音色は、より強烈なトリップ感をもたらします。また、優しく光輝くグロッケンシュピールの音色も艶やかさに満ちており、どこまでも心地いい音の世界が広がります。

  • <ジャズ>
    『Waltz For Debby』
    The Bill Evans Trio
    1961年作品
    Riverside
    ¥1,000(税抜)

往年の名盤にしてオーディオファンにも定番の音源でも、その実力が遺憾なく発揮されます。ピアノのタッチは、しなやかに紡ぎ上げられ、羽毛のような軽やかさで空間へと舞い上がると同時に、その音色には透明感に満ちた麗しい光沢がもたらされ、極上の質感があります。ブラシスティックによるスネアやシンバルも、スムーズきめ細やか。ウッドベースはしっかりとしたボリュームで再現され、リラクシングなこの音源のボトムを支えています。

  • <クラシック>
    『Handel: Messiah, HWV 56 (1742 Version)』
    Gaechinger Cantorey
    2020年作品
    Accentus Music
    ¥2,315(税抜)

最近リリースされた作品も一枚挙げてみます。若手実力派ソリストの好演が光る本作は、強調や誇張感のない演奏解釈による、じつに清澄なメサイアが堪能できるものです。明瞭に捉えられたアリア部分でのソリストの歌声は、張りと厚みに満ちた充実感で、心地よく再現。また、ややオフ気味のマイクアレンジによって、自然な距離感で収録されているバロックオーケストラも、硬質感とは無縁の瑞々しさで美しく再現され、本機の魅力を存分に楽しませてくれます。

LINEUP

ElectroMotion ESL X
Bird Eye Maple Nature/Mahogany/Ash Black
¥800,000(税抜/ペア)

SPEC

[ElectroMotion ESL X]
●形式:ハイブリッド静電型 ●使用ユニット:XStat CLS 静電パネル、203mmウーファー×2 ●周波数帯域:41〜22,000Hz ●クロスオーバー周波数:400Hz ●能率:91dB ●外形寸法:238W×1503H×526Dm ●質量:23.6kg