VGP phileweb

レビュー

  • YAMAHA「RX-A8A」 VGP2022 特別インタビュー[オーディオ編]
    批評家大賞に輝いた理由を徹底解剖!
    AVアンプとして圧倒的な完成度を誇る旗艦機

    取材・執筆 / 大橋伸太郎
    2022年7月28日更新

    • VGP審査委員長
      大橋 伸太郎

従来シリーズからデザインも刷新し、新たな世代へと進化したヤマハのAVアンプ「AVENTAGE」。シリーズのなかでも、フラグシップモデルとした誕生した「RX-A8A」は、ヤマハが培ってきた3Dサラウンドにおけるノウハウを惜しみなく投入したモデルであり、ヤマハの新たなAVアンプを牽引する、まさに旗艦モデルとして、VGPアワードでも群を抜いて評価されました。RX-A8Aを開発する上で徹底的に注力した部分、そしてその取り組みがいかに高く評価されたのかを、特別インタビューにて解説していきます。

  • YAMAHA
    「RX-A8A」
    ¥484,000(税込)

“TRUE SOUND”を基にAVENTAGEを再定義

大橋氏 VGP2022にて、AVENTAGEシリーズの「RX-A8A」が批評家大賞に輝いたこと、おめでとうございます。今回は、RX-A8Aの魅力を、開発者の方々へのオンライン・インタビューを通して、読者にお届けしていきたいと思います。

御社のハイエンドモデルの名称であった「AVENTAGE」。新たなAVENTAGEはラインアップを広げ、機構からデザインまで一新し、第2のスタートを切ったと言っても過言ではありません。AVENTAGEのフラグシップモデルである、RX-A8Aを発売して、ユーザーからの反響が大きかったと思われますが、実際にどのような反応があったのでしょうか?

村本氏 今までヤマハのAVアンプは、一年おきにリプレイスを図ってきたのですが、今回は3年間の開発期間を設けて、フルラインアップの刷新を行いました。デザイン、サウンド、モデル名のすべてを一新し、ヤマハをお使いいただいているユーザーから、“遂に出たか”という声が沢山届いています。また、AVENTAGEを昔から使い続けてくれたお客様の期待に応えるラインアップが、投入できたと自負しています。

デザインについては、アンプの象徴であるボリュームを中央に配置し、それ以外の要素を極力排除することで、シンプルで次世代を感じさせるという声をいただいています。トラディショナルやコンベンショナルなデザインから一風変わったという意見も聞きます。音質面は、グローバルで好評で、一体型AVアンプのレベルを超えているという評価をいただいています。

大橋氏 VGPの前進である「ビデオグランプリ」で、初めて音響機器として最高金賞に輝いたモデルが、御社の世界初の一体型7.1ch・AVアンプ「AVX-2000DSP」でした。それが1990年でしたが、それ以来、AVアンプの世界において、ヤマハはリーディングメーカーとして走り続けてきましたが、これだけ大胆にモデルチェンジをしたのは、あまりなかった印象です。デザイン面において、伝統的な外観から逸脱したと捉える方もいれば、機能が増えていく一方でデザインはシンプルなほうが新時代的だと受け止める方など、さまざまな印象が生まれたようですね。

同時に音質傾向も、御社の伝統的な音とは少し違う方向を感じました。ヤマハのAVアンプのサウンドというのは、スケールが雄大で、ある種の艶っぽさ、華やかさがあるイメージが強かったです。RX-A8Aは、音の鮮度、スピード感、解像感といった方向を強く打ち出したように感じました。その音の傾向の違いは、どういった経緯で生まれたのでしょうか?

藤澤氏 今回のモデルは、20~30代の若手のエンジニアが中心となって設計を見直し、ビルドアップしていった背景があります。3年の期間を掛けて、音に対して我々が目指す価値を再定義するところから始めました。その過程で、ヤマハオーディオ製品すべてに通貫する音“TRUE SOUND”が明確化されました。それを実現するための3つの音質指針「音色(おんしょく)」「ダイナミクス」「サウンドイメージ」をもとに新しいAVENTAGEの音を作り上げました。

そして、一体型のフラグシップAVアンプがどうあるべきか、再定義された我々の目指す音を実現するために筐体や回路構成について一新しました。これまでの伝統的な音質をベースとしながらも新しい世界観を作っていく、オーディオの本質であるアナログ技術と、ヤマハ独創のデジタル技術を高いレベルで融合させ、妥協なく実現しました。

  • VGP2022で批評家大賞を受賞した、YAMAHAのAVアンプ「RX-A8A」。今回、VGPアワードの審査委員長を務める大橋伸太郎氏が、RX-A8Aだからこそ堪能できるサウンド体験について、開発陣にオンライン・インタビューを実施しました。
  • RX-A8Aは、新生AVENTAGEとして、「RX-A6A」、「RX-A4A」と共に誕生。従来のAVENTAGEシリーズからデザインを一新し、黒鏡面仕上げの前面パネルの中央に、大型ボリュームノブを配置したシンプルな仕上げを採用しています。

アナログ部を徹底的に向上させて高い次元に

日比野氏 RX-A8Aのサウンドの、まず「音色(おんしょく)」についてですが、作品に込められた音を再現できることを目指しました。細かい音まで磨き上げることで、作品を構成するひとつひとつの音の質感、テクスチャをしっかりと伝えられるように仕上げました。

「ダイナミクス」は、静と動の対比の表現力です。映画作品の中でも、静かなシーンから動きのあるシーンへの移り変わりは心を動かされる部分であり、映画の醍醐味だといえます。そういうシーンを描き切れるかが「ダイナミクス」のポイントです。

「サウンドイメージ」は、AVプリアンプ「CX-A5200」から踏襲し、ESS社製32bit DAC「ES9026PRO」を2基搭載することで、全チャンネルの空間表現を統一しました。音の密度感と実態感を保ちながら、空間をより大きく広く、そして自然に再現することを狙った音質設計を施しています。

単に広げるのではなく、コンテンツ制作者によって設計されたサウンドデザインを実現するために、スピーカーのサークル内だけでなく、外側の空間まで緻密に表現するといった部分ですね。空間の密度と描写の両立がコンセプトとなります。

藤澤氏 これらのポイントを実際に音へと落とし込んでいくために、技術的な部分を盛り込んでいきました。筐体も一新していますし、回路設計も以前のものを一から見直して考えています。若手の設計者がベテランの技術を受け継ぎながらも、さらにリビルドしていくという手法に挑戦しました。

大橋氏 筐体のデザインだけでなく、メカニカル構造の設計からローインピーダンスをテーマとしたプリアンプの回路設計、電源トランスやコンデンサーをはじめとする高品位パーツを多数投入するなど、アナログ部の徹底的なブラッシュアップがそれらを高い次元に押し上げている印象を受けました。RX-A8Aならではの、アナログ部の作り込みについてはいかがでしょうか。

日比野氏 今回のAVENTAGEの上位モデル群は、デザイン刷新の意味もあり、構造的にも全て見直しています。H型クロスフレームなども、以前から継承しているものですが、より剛性を上げる構造を採用しています。また、筐体のトランスの位置が変わることで重心も変わるので、音質調整のための5番目の脚の位置も再度検討したり、細かい調整が至る所で投入されています。

さらに、音質に悪影響がある微小な振動を抑えるためにパーツを追加しており、トランスから生じる振動などが、パワーアンプ部に伝わらないような工夫も施しています。またRX-A8Aのみ、5番目の脚に真鍮を埋め込んでいますが、開発段階ではトランスの下に真鍮を敷いてみたり、真鍮以外の素材も試したりもしましたが、そういった比較をした上で一番自然な音を再生できる手法にしました。

音の再現性に大きく効いてくる電源部の基礎設計、カスタマイズされたブロックケミコンや回路構成の見直しによるスルーレートの向上、プリアンプ部分の4層基板化、剛性確保のための部品同士の密着性向上やダンパーの追加など、試聴を繰り返しながら、あらゆる部分でフラグシップモデルとして作り込みが採用されています。これらの要素をブラッシュアップさせたことで、我々自身も感動できる音を実現できたと考えています。

  • フラグシップモデルにふさわしい高品位パーツを投入し、さらに回路構成も一新。電源部にカスタムメイドの大容量ブロックケミコン、ドイツWIMA社製のフィルムコンデンサを採用したほか、従来モデル比で約2倍のハイスルーレートを実現しています。信号の追従性と安定性を高めることで、ハイレゾ音源など高周波を含む音声信号の再現性も向上させました。
  • 同社のAVプリアンプのフラグシップモデルである「CX-A5200」でも採用されていたESS社製のDAC「ES9026PRO」を、RX-A8Aにおいても2基搭載しており、全チャンネルのサウンド傾向の徹底的な統一、そして独自のD.O.P.Gコンセプトとの組み合わせによって、全帯域での静寂性、解像度の飛躍的な向上に寄与しています。
  • AVENTAGEの象徴である5本目の脚。筐体を刷新したことによりトランスや重心が変化した本シリーズでは、その位置を本体前面の中央に配置しました。従来の約1/10にまで振動を低減しており、さらにRX-A8Aでは真鍮材を埋め込むことによって、より豊かで自然なサウンドに仕上がっています。

64bit演算処理により緻密な空間表現を実現

大橋氏 では、次にDSPの部分についてお聞かせください。今回、64bit演算処理を実現したDSPを投入したことが、「SURROUND:AI」や「YPAO」、「シネマDSP HD3」に対して大きな効果を与えていると考えられますが、その詳細はいかがでしょうか。

藤澤氏 30年以上の歴史があるヤマハの独自の音場創生技術「シネマDSP」、また音場創生においてベースとなる音場補正技術「YPAO」、これらの音場機能が自社開発だからこそしっかりと連携できることが強みであると思います。

今回、64bit SoC「QCS407」に刷新されており、処理能力も上がっているため、64bitの演算が高速処理できるようになっています。この利点を活かせたところが大きなポイントです。音場の創生処理の演算プログラムがあるのですが、64bitで処理するように全てを書き直しました。そうすることで、演算の誤差を極小化し、より緻密な空間表現が可能になりました。

また、ハードウェアの作り込みができているおかげもあって、アナログ技術とデジタル技術の融合で、これまでにない透明感や空気感、深みのある音場が表現できるようになっています。その効果は想像以上で、開発陣の皆が驚いた程です。

「YPAO」にも新しい機能として、長い期間かけて検討した「YPAO:低周波数領域」が追加されました。これは、中高域の音はそのままで低域だけすっきりさせたいというユーザーのニーズに応えたモードで、部屋の持つ固有の低周波数の定在波だけ重点的に整えて、低域が高域に与える影響を抑えます。部屋に残る低い音の響きを狙って補正するのです。例えばハイエンドのスピーカーを使っていて、そのスピーカーの中高域のキャラクターはそのままに、低域だけすっきりさせたい、そういったユーザーの方に使ってもらいたい新しい機能です。

また、音場処理と組み合わせるためのアップミキサーとして、従来までは、「DTS Neo:6」や「Dolby Pro Logic II」など、他社のアップミックス処理をつかっていましたが、今回はアップミキサーとして自社で作り込み、特に音色にこだわった音質チューニングを行いました。初搭載の機能なので、こちらも訴求したいポイントですね。

2chで放送されているテレビ番組やアニメ、そういったものに組み合わせてサラウンドで聴いていただくと、凄くナチュラルにセリフやBGMが聴こえるようになっています。無理にチャンネルを拡張するのではなくて、セリフが自然と画面に乗ることを重視して調整しています。

映画作品などを観るときに一番大事にすることが、ダイアログ、BGM、サウンドエフェクト、この映画の音の3大要素が、ちゃんとスクリーンから部屋へと満ちるように再生できるかを常に意識しています。最も重要なことは作品に没頭できることであり、そのためにダイアログ・ファーストでサウンドデザインしています。

今回、音場処理部の演算精度が向上して音質がとてもクリアになったこと、そして2chコンテンツにおいても自社開発したアルゴリズムでより音色にこだわっているというところで、作品に没頭できるような深みのある音場表現が、トータルで実現できたと思います。

  • Qualcommの64bit SoC「QCS407」を採用したことで、高精度な64bit演算処理を実現。これによりノイズに起因する過度な音の響きを抑えるほか、より緻密な空間表現が可能となりました。
  • 新たに3Dサラウンドオーディオフォーマット「AURO-3D」に対応し、RX-A8Aでは最大11.1chでの再生が可能です。ドルビーアトモス、DTS:Xのイマーシブサウンドもカバー。ヤマハ独自の3次元立体音場創生技術「シネマDSP HD³(エイチディ キュービック)」との掛け合わせ再生に対応しています。24種類のシネマDSP音場プログラムを搭載しており、新旧さまざまなコンテンツに合わせて音場を選択できます。
    ※「AURO-3D」への掛け合わせはできません。
  • 視聴中のコンテンツに含まれるBGMやセリフの音声、環境音や効果音といったあらゆる音情報をAIによって分析し、シーンに最適化された音場再現を叶える、ヤマハのオリジナルサラウンド機能「SURROUND:AI」も、64bit演算処理によってさらなる進化を実現しました。

AVアンプだから楽しめる最高級のイマーシブサウンドを

大橋氏 ドルビーアトモスやDTS:X、AURO-3Dなど多数のイマーシブサウンドに対応するだけでなく、イコライザー機能やアップミックスなどに、新たな機能を追加しているのですね。現在のイマーシブサウンド、モアチャンネル化というのは、ヤマハがこの30年間で積極的に取り組んできたことだと思います。空間の拡張、特にハイトへの拡張というのは、御社が一貫して取り組んできたことですが、まだまだ進化していくアプローチとして、どのようなことがあるのでしょう?

藤澤氏 ヤマハのAVアンプのユーザーが、どれだけ楽しめているのか、そこを追求することで、イマーシブサウンドでやれることは、まだまだ沢山あると思っています。例えばバーチャル技術でいいのか、もっとカジュアルにイマーシブサウンドを楽しめる方法を提供すべきなのか、またヤマハオーディオとして視点で考えれば、AVアンプのユーザー以外へのアプローチも拡大していかなければなりません。

技術的な面だけでなく、ユーザーエクスペリエンスの視点から考えたアプローチも必要です。使いやすさや設置のしやすさなど、そういった面もクリアしていかなければいけない課題と捉えています。

大橋氏 モアチャンネル化は、やはりスピーカーの本数を増やして配置するということは、一般的には難しい面がありますね。御社の場合、ワイヤレススピーカーをリアスピーカーとして使用する機能も採用されていますが、その機能の拡充なども個人的には期待しています。よろしければ、今後のホームオーディオの中で、AVアンプだからこそできる大切な役割について、どのようにお考えかお聞かせ願えないでしょうか。

藤澤氏 やはり映像コンテンツに込められた制作者の意図を具現化するという部分だと考えています。ドルビーアトモスであったり、7.1chサラウンドであったり、そこで作られた音を余すことなく、チャンネルをフル稼働して鳴らしきる、これはAVアンプでしか成し得ないことですし、AVアンプだからこそ可能な最高級の体験を提供できると思っています。

村本氏 グローバルの情勢から見ると、サウンドバーなどカジュアルなアイテムに流れていく傾向がありましたが、サウンドバーのユーザーでも、リアスピーカーを追加したいなど、マルチチャンネルで楽しみたいと考える方が改めて増えています。また、コンテンツも映像作品だけでなく、音楽もマルチチャンネル、イマーシブサウンドで楽しもうという提案も出てきています。アーティストの意図も最高峰で伝えられる存在として、AVアンプが広がっていってほしいという期待感も持っています。

新時代のヤマハが打ち出す“TRUE SOUND”

大橋氏 ハイクラスのAVアンプから数多くのオーディオアイテムを開発し続けているヤマハとして、今の時代だからこそハイクオリティなホームシアターというものに多くの方が関心を持つような事業戦略などは、ありますか?

村本氏 我々ホームオーディオ事業部として、改めて追求する音を再定義し、従来まで暗黙知として持っていた音に対する共通意識を明確にして”TRUE SOUND”を作り上げました。我々が意思を持って目指す音を追求し、サウンドバーからワイヤレススピーカーなどのアイテムから、ハイエンドのステレオアンプからAVアンプまで、一貫して“制作者の想いを伝える音”という価値を実現し、ユーザーの方に”TRUE SOUND”を届けていきたいと思います。

藤澤氏 やはり我々の中でも今までのAVENTAGEとは、ひとつ違う次元に昇った音が出ていると自負しています。開発メンバーの世代も変わったことも、新時代の音の作り込みに繋がったと考えています。ユーザーの皆様には、今まで自身が愛した作品、大好きなコンテンツを新生AVENTAGEで楽しんでほしいです。そして、新たな発見やもう一度感動できる、そういった体験が生まれたら嬉しいですね。

日比野氏 我々自身もやはり感動できるような音に仕上がったと改めて思っていますし、出来れば音に関わる多くの方々にRX-A8Aを体感していただきたいと思っています。そして我々と同じくその音質に感動していただけたなら、開発者としてこの上なく嬉しく思います。

大橋氏 御社の集大成であり、新時代のヤマハが打ち出す“TRUE SOUND”を十二分楽しめるRX-A8Aのサウンドを、多くのオーディオビジュアルファン、ホームシアターファンに楽しんでもらいたいですね。本日はありがとうございました。

  • <取材協力>
    ヤマハ株式会社
    ホームオーディオ事業部開発部
    写真左:音質担当 日比野 瑛 氏(ひびの あきら)
    写真右:DSP担当 藤澤 森茂氏(ふじさわ もりしげ)
  • ヤマハ株式会社
    ホームオーディオ事業部グローバルマーケティング&セールスグループ
    村本 倉人氏(むらもとくらと)

SPEC

RX-A8A
●パワーアンプch数:11ch ●定格出力:150W+150W(8Ω、20-20kHz、2ch駆動時)●実用最大出力:220W(8Ω、1kHz、1ch駆動)●周波数特性:10Hz~100kHz ●HDMI対応イマーシブサウンドフォーマット:AURO-3D、Neural:X、Dolby Atmos、DTS:X ●対応サンプリング周波数/量子化bit数:PCM→最大192kHz/24-bit、DSD→最大2.8 MHz ●主な入力端子:HDMI×7、光デジタル×3、同軸デジタル×2、アナログ音声(RCA)×5、USB×1、LAN×1 ●主な出力端子:HDMI×3、アナログ音声×13、サブウーファープリアウト×2、マルチチャンネルプリアウト×11.2ch ●消費電力(待機時):600W(0.4W)●外形寸法:435W×192H×477Dmm ●質量:21.4kg