高効率で色純度を向上させる“光の波長変換”
量子ドット(Quantum Dot)技術は、カラーディスプレイの映像をより明るく色鮮やかに改善しつつ、低消費電力も両立する、画期的な新技術で、4Kハイエンドモデルを皮切りに、ミドルクラスの製品まで広がりを見せています。量子ドット技術の肝はズバリ“光の波長変換”。従来の光を濾過する「フィルター」とは全く異なる原理なので、詳細に解説してゆきましょう。
まず、従来の一般的な液晶テレビやほとんどの有機ELテレビは、光源自体は白色発光で、フィルターを通すことによってR/G/Bの3色を取り出し、これらを加法混色してフルカラーを再現しています。注目すべきはこの「フィルター」の原理で、例えばR(赤色)のフィルターは、光源が放った白色の光から、赤色以外の青色や緑色を捨てることで実現しています。ここでお気づきだと思いますが、フィルターは光のロスが多いのです。
一方の量子ドット技術(ディスプレイ分野)は、ナノメートルサイズの粒子にPhoton(光子/光の粒子/素粒子)が吸収され、再結合することで新しい光子を生み出すというもの。粒子の直径によってこの波長を精密に長い方へと変換できるのがポイントで、波長が短い青色発光の光源から、波長が長い緑色や赤色を高効率に作り出せるという訳です。
- 量子ドットとは、直径2〜10ナノメートルサイズの半導体粒子です。光を照射すると、そのエネルギーを吸収し、光の波長を変換する特性を備えています。量子ドットのサイズが小さいほど青色に、大きいサイズほど赤色に近付いていきます。
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発光効率の高い構造で輝度も向上
量子ドット技術を応用したテレビ製品は2013年頃に登場し、約10年が経とうとしています。ではなぜ今、量子ドット技術が大きな注目を集めているのでしょうか? いくつかの要素が重なった結果といえます。
まずは解像度の「4K」化。フルHDと比べ4Kは画素数が多く、その分、画素間の仕切りなども増えるので開口率が下がり、言い換えると光のロスが生じます。液晶テレビのバックライトがCCFLからLEDに置き換わったことで、発光効率そのものは上がっています。が、HDR映像ではより高い輝度性能を必要とされることもあり、またその中で消費電力を抑えるためにも、光源のさらなる高効率利用が求められるのです。
次に、広色域規格「BT.2020」への対応。色域を広くするためにはR/G/Bの純度を高める必要があります。フィルター方式の場合、捨てる光の成分がさらに多くなるため、映像は暗くなり、消費電力も増える方向に。この点において「波長変換」を行う量子ドット技術は、発光効率のよい青色LEDや青色レーザー光を用いることで、低消費電力/高輝度/高純度/広色域、すべての実現が期待できます。
また当初は非常に高価だった量子ドット素材が安価になり、有害物質の使用が抑えられるようになったことも、普及を後押ししているのでしょう。
- 従来の液晶テレビは、白色LED光源からカラーフィルターで色を取り出す方法を採用していましたが、量子ドットを採用した液晶テレビでは、発光効率の高い青色LED光源を用い、量子ドットを付着させたシートに光を透過させる手法で広色域化を実現しています。
液晶と有機ELの両方の4Kテレビで採用
量子ドット技術は、液晶テレビだけでなく有機ELテレビでも採用が始まっている高画質技術です。ここでは、各社登場している、量子ドットを採用した主な4Kテレビをご紹介していきます。
まずは、量子ドット技術をいち早く取り入れた4K液晶テレビについて。これまで白色LEDを利用していたバックライトを「青色LED+QDシート=白色発光」に置き換えることで、カラーフィルターは存在するものの、広色域化と低消費電力化を実現しています。具体的な国内販売製品の例としては、TCLやハイセンスの「QLED」テレビや、シャープの「XLED」テレビ、LGの「QNED」テレビ、REGZA「Z875L/Z870Lシリーズ」などがあります。
4K有機ELテレビは、国内ではソニーが「A95Kシリーズ」に、量子ドット技術を応用した有機ELパネル(QD-OLED)を採用しました。OLEDは青色発光で、量子ドット技術により緑色と赤色を得る仕組みです。実際の映像を確認しましたが、今まで目にしたことのない、染み入るような純度の高い色は圧巻。新しい時代を感じさせてくれるものでした。
- 4K液晶テレビ
TCL
「C835シリーズ」
- 4K液晶テレビ
TVS REGZA
「Z770Lシリーズ」
- 4K有機ELテレビ
SONY
「A95Kシリーズ」
さらなる効率化や高画質化にも期待
本稿でご紹介したとおり、量子ドット技術がテレビの映像表現をさらに豊かにすることがご理解いただけたのではないでしょうか。液晶タイプでは、さらにLED自体に量子ドット素材を組み合わせる技術や、カラーフィルターを量子ドット素材に置き換えるアイデアもあります。有機ELは、当面は「QD-OLED」が主流になりそうですが、さらに先には、量子ドット素材自体に電気を流して発光させる技術も開発中と、今後もテレビの進化から目が離せません!
- 国外では、有機ELに量子ドットを採用した「QD-OLED」を搭載した4Kテレビが、サムスン電子から発売されています。光エネルギーが最も強い青色の有機ELを光源とし、量子ドットシートを導入しています。バックライトを必要とする液晶テレビよりも、さらにシンプルで高効率な構造を実現しています。